
はじめに
Zendesk の『2021年カスタマーエクスペリエンストレンドレポート』によれば、顧客の75%は、優れたカスタマーエクスペリエンス (CX) を提供する企業からの購入であれば購入金額を増やしたいと回答しています。したがって、CX 改善のための施策への投資には時間と労力をかけるだけの価値があります。
CX 関連指標は、企業が顧客の満足度とロイヤリティを理解するのに役立つ重要な業績評価指標 (KPI) です。こうした指標を追跡することで、カスタマーエクスペリエンス施策の成否を判断し、改善すべき領域を特定しやすくなります。
2022年に追跡すべき8つの主要カスタマーエクスペリエンス指標
ここでは、カスタマーエクスペリエンス管理プログラムの影響測定に使える指標を8つご紹介します。
ネットプロモータースコア (NPS)
ネットプロモータースコア (NPS) は広く使用されている指標であり、2003年の導入以来、透明でわかりやすい方法論で人気を集めています。フォーチュン1000企業の3分の2が NPS を使用して顧客満足度を測定していると推定されています (Fortune)。
NPS は、顧客が友人や同僚に企業、製品、またはサービスを推奨する可能性を評価するように求める単一の質問で構成されており、一般には1 (可能性は非常に低い) ~10 (可能性は非常に高い) のスケールを使用します。NPS 調査には、追加のコンテキストを提供するための自由回答式の質問が含まれることもあります。
NPS スコアは、調査対象の顧客に含まれる批判者 (0~6のスコアを付けたユーザー) の比率を推奨者 (9~10のスコアを付けたユーザー) の比率から差し引いて算出します。例えば、回答者の20%が批判者、10%が中立者、70%が推進者の場合、NPS スコアは70-20=50となります。
「よい」NPS スコアとは?
NPS スコアが0未満の場合は、ビジネスで対処すべき問題がいくつかあることを示します。0~30の場合は許容範囲ですが、改善の余地があることを示します。スコアが30を超える企業は好調で、不満足な顧客よりも満足した顧客の方が多いということになります。
NPS は、単一のトランザクションではなく顧客の全体的な認識を反映するため、CX と顧客ロイヤルティの測定に有益で、多くの場合、ブランドまたはリレーションシップの指標と呼ばれます。
顧客満足度 (CSAT)
顧客満足度 (CSAT) は、企業が製品、サービスやブランドに対する顧客の満足度のレベルを判断するためによく使われる、もう1つの有用な指標です。CSAT は、製品やサービスと関わり合いを持った後の顧客の肯定的な反応と否定的な反応を組み合わせたものです。これは、通常、できる限りそのやり取りに近い時点で、顧客にアンケートに参加してもらう形で測定されます。
CSAT は通常、1 (非常に不満足) から5 (非常に満足) のスケールを使って測定され、顧客がカスタマーサポートやカスタマーサービスなどの1回限りのやり取りに満足しているかどうかを測定するのに役立ちます。CSAT を計算するには、満足している顧客を回答合計数で割り、100を掛けます。例えば、収集した回答50件のうち40人の顧客が満足していれば、CSATは80%となります。
CSAT は実装しやすく、顧客にとっても簡単に対応できる場合が多い指標です。
顧客努力指標 (CES)
顧客努力指標 (CES) では、特定の取引を基に、企業とのトランザクションの容易さや困難さに対する顧客の認識を測定します。顧客の94%がトランザクションがスムーズだと再購入の可能性が高いとしているのに対し、トランザクションに手間がかかる場合、再購入の意向を示す顧客の比率はわずか4%となるため、注目すべき指標です (CEB)。
CES の調査では、一般に、1 (強く反対) から5 (強く同意) までの評価システムを使い、「[会社名] は問題処理をしやすくしてくれた」などの質問文への同意度を回答するよう顧客に求めます。すべての回答を平均して CES スコアが算出されます。
(回答の合計) / (回答数) = CES スコア
CES スコアが高い場合は、顧客にスムーズな体験を提供したことを、低い場合は、顧客がプロセスを困難に感じていることを意味します。
顧客解約率
顧客解約率は、顧客がブランドや企業との取引を停止する比率を測定するものです。これは、一般的に、一定期間内にサブスクリプションなどの継続的なサービスや製品の利用を中止した契約者の比率として表されます。通常は新規顧客を獲得するよりも既存顧客を維持する方がはるかに安く付くため、解約率を把握し、対処することは重要です。
顧客の維持に注力することの価値についての詳細は、当社のホワイトペーパー顧客獲得と顧客維持の比較 : ポストコロナの変曲点をダウンロードしてください。
解約率を計算するには、測定対象となる特定期間 (月や年など) を決定します。次に、その期間に解約した顧客の数を特定し、その期間の開始時点での既存顧客の数で割ります。
(失われた顧客数) / (開始時点での既存顧客の合計数) = 解約率
自社での解約率を定期的に分析し、解約率の増減傾向を見極め、解約が発生している理由を理解し、解約を減らすためにできることを検討することは大切です。
顧客維持率
顧客維持率は、企業が特定の期間に顧客を維持できているかどうかを測定するもので、解約率の逆数であり、維持率が高いほど解約率は低くなります。
顧客維持率は、測定終了時点で顧客合計数から新規顧客数を差し引いて算出します。次に、この数値を測定開始時点の顧客数で割り、100で掛けます。
顧客生涯価値
顧客生涯価値 (CLV) は、顧客が生涯にわたって企業またはブランドに費やす合計金額を示します。顧客の CLV の増加は、顧客維持率の向上、顧客あたりの収益の増加、新規顧客の獲得に費やす費用の削減につながります。
顧客の声 (VOC)
顧客の声 (VOC) プログラムは、製品やサービスに対するカスタマーエクスペリエンスと期待に関する顧客のフィードバックを収集するものです。ユーザーの行動データ、現場スタッフと顧客との通話の録音、顧客からの直接的なフィードバック、ソーシャルメディアでの議論など、強力な分析手段となるデータが集められます。それまで特定できていなかった問題の解決に活用できる率直な洞察が得られ、製品やサービスの改善のため取るべき行動を特定するのに役立ちます。
従業員満足度
カスタマーエクスペリエンスの出発点となる従業員の満足度を評価することは重要です。従業員体験の向上がカスタマーエクスペリエンスの直接的な向上につながることは多数の研究で明らかになっています。複数の調査によると、従業員のエンゲージメントが高い企業のパフォーマンスは相対的に最大で147%高い傾向にあります。
従業員に対し、1から10の尺度で自分の仕事に満足しているかどうかを尋ねましょう。一般的に、自分の仕事に満足している従業員はよりよい顧客サービスを提供します。
追跡すべき適切な CX 指標の選択
収益が10億ドル相当を超える大企業の大半では、50を超える CX 指標を採用しており、中には、採用数が200を超える組織もあります。採用候補となる指標の数は非常に多いため、追跡すべき CX 指標を絞り込む方法論が必要となります。
顧客への相対的な影響の観点から見て最も重要な指標を判定するには、企業は以下の4段階のプロセスを採用する必要があります。
ステップ1 : 監査
カスタマーエクスペリエンス向上に採用すべき CX 指標を評価する最初のステップでは、組織全体で現在使われているすべてのカスタマーエクスペリエンス指標を監査します。その目的は、測定対象、各指標の算出方法、改善担当者を確認するためです。
徹底的な監査を行うことで、最初に関連部門として思い浮かぶようなマーケティング、カスタマーサービス、オペレーション、セールスやサプライチェーンといった部門以外にも視野が広がります。また、デジタルコマース、人事、物流、請求、調達、財務部門でも、分析が必要なさまざまな CX 指標を追跡しています。
監査が完了すると多数の指標が集まり、圧倒されてしまうかもしれません。データを管理しやすくするため、ほとんどの組織ではこれらの指標を以下の4つのカテゴリーに分類しています。
- 顧客満足度
- 顧客ロイヤルティ/維持率/解約率
- アドボカシー/評判/ブランド
- 品質
ステップ2 : 階層型ダッシュボードの構築
組織内では、部門によって焦点を当てる CX 指標が異なる傾向があります。しかし、企業としてカスタマーエクスペリエンス全体の強化と改善を目指す場合、顧客がすべての部門で経験しているエクスペリエンスに対して、組織全体の担当者が可視性を得られることが重要です。こうすることで、従業員はカスタマーエクスペリエンスの内容と特定のインタラクションに及ぼす影響の有無について完全に理解できるようになります。
こうした俯瞰的なカスタマーエクスペリエンス像を見出すには、関連するすべての指標をカスタマーエクスペリエンスダッシュボードにまとめます。CX ダッシュボードは、可能な限り多くの異なる視点からカスタマーエクスペリエンス全体を捉えます。
このようなダッシュボードでは、通常、上部に全体的な顧客満足度スコアなどの運用管理部門が関心を持つ指標が1つから2つ表示されます。下に向かうにつれて、カスタマーエクスペリエンスに関連する運用指標が表示されます。
ステップ3 : 指標を選別
階層ダッシュボードへの入力が完了したら、顧客の観点から各指標を確認します。次に、カスタマーエクスペリエンス評価に関する重要度が高いものから低いものへと並べ替えます。
ほとんどの組織では、内側から外側に向かって考えがちな傾向があります。こうした思考方法では、カスタマーエクスペリエンスを真の意味で評価できない CX 指標に依存するリスクが高くなります。そうなると、顧客の製品やサービス購入・利用の支援などのカスタマーエクスペリエンス面での目標ではなく、コスト削減などの事業目標達成のための施策にすり替わってしまう可能性があります。
逆に、外から内へと考えるようにしましょう。顧客を第一に考えれば、議論している指標が適切な CX 指標でないときに必ず気付けるようになります。
ステップ4 : 経営陣が必要とするレベルのカスタマーエクスペリエンス指標への注力を回避
取締役会レベルの経営幹部は、顧客満足度 (CSAT)、ネットプロモータースコア (NPS)、顧客努力指標 (CES) など、カスタマーエクスペリエンス全体を要約する指標に注目する傾向があります。では、CX 担当者もこうした指標を重視すべきでしょうか。
それは違います。
平均的な組織が業界のトップに上り詰めるのにかかる時間、または平均以下の組織が平均レベルに到達するのにかかる時間は約4〜5年と言われます。したがって、CX 担当者としては、下位のいくつかの CX 指標の改善に注力した方が、短期的に成功する可能性が高くなります。
改善すべき指標を複数特定すると、リスクを広げる可能性が高まります。つまり、失敗のリスクを広めるプロジェクトのポートフォリオが形成されるようになります。さらに重要なこととして、小さな改善により効果を積み重ねることで、上位の CX 指標も改善される傾向がある点も見逃せません。
分析から改善へ
カスタマーエクスペリエンスの追跡に使える指標は数多くありますが、こうしたデータを取得する主な目的は、その改善を促進することです。したがって、実行可能な KPI を選択することが大切です。
例えば、保険会社において、顧客が保険金受取人の情報を更新する際のプロセスの CES スコアが低いとしましょう。その場合、保険会社はフォームをデジタル化し、顧客データを事前入力することで顧客がアクションの完了にかかる労力を低減することができます。
VoC プログラムや NPS 調査で支援者として特定された満足度の高い顧客を製品やサービスの支持者に変えましょう。満足度の高い顧客は、好意的なレビューを残したり、ケーススタディや推薦コメントに協力してくれたりする可能性が高くなります。
VoC プログラムで製品機能に関する顧客のフィードバックをつかみ、新しい製品やサービスの機会につなげましょう。
結論
時間とリソースを投資してカスタマーエクスペリエンスを測定する上では、最終的な体験向上のために製品やサービスを改善する方法について実用的な洞察を得ることが重要です。組織がカスタマーエクスペリエンス向上に時間とリソースを割り当てる際には、施策の成果を追跡し、測定することが大切です。こうした基本的な KPI をいくつか使用し、調査結果に対処するためのアクションを実行することで、CX の成功に向けて全社的に体制を構築できるようになります。