はじめに

近年、カスタマーエクスペリエンス管理 (CXM) について耳にする機会が増えています。しかし、CX 管理とは具体的にどのようなもので、なぜビジネスにとって重要なのでしょうか。

今日、顧客と企業との関わりの中で生まれる体験を管理することは、企業の成功に不可欠です。規模を問わず、すべての企業が顧客のニーズに応えることを求められており、それができなければ生き残ることはできません。あらゆるタッチポイントでポジティブな体験を維持できるよう、企業としてのアプローチをどう進化させるかで継続的な成功の如何が決まります。ここで必要となるのが、カスタマーエクスペリエンス管理です。

カスタマーエクスペリエンス管理とは?

カスタマーエクスペリエンス管理 (CXM) とは、顧客を理解し、企業に関する顧客の認識に影響する戦略を展開する取り組みです。適切に行えば、顧客満足度、ロイヤルティやアドボカシーの向上といった成果が得られます。CXM には、カスタマーエクスペリエンス強化のために設計された、カスタマーコミュニケーション管理 (CCM)、アーカイブ、カスタマージャーニー管理 (CJM) などのプロセスが含まれます。

CXM は顧客関係管理 (CRM) と混同されがちですが、これらには明確な違いがあり、その主なものは視点の違いです。CRM では、企業にとって顧客がどう見えるかが重要です。一方、CXM では、顧客にとって企業がどう見えるかがテーマとなります。他にも、CRM が手動入力やバッチ入力によってデータを収集するのに対し、CXM ではリアルタイムのデータフローが必要といった違いがあります。

カスタマーエクスペリエンス管理が重要な理由

今日の顧客は、製品やサービスを利用することを選択したブランドに対し、質の高い体験が普遍的に得られることを期待しています。この期待に応えられないと、痛手を負う結果となります。顧客の85%は、期待に応える体験を提供する競合他社に対して、支出を大幅に増やす意向があるとしているためです。

顧客を獲得し、繋ぎ止めるには、顧客が希望する方法とタイミングでつながり、パーソナライズされ、透明性の高いエクスペリエンスを創出することが鍵となります。潜在的な費用対効果 (ROI) は大きく、カスタマーエクスペリエンスが優れた企業はこの値でも優位にあります。Forbes によれば、カスタマーエクスペリエンスに投資した企業は80%もの増収を実現しています。こうした数値を見れば、企業がブランドとのやり取りに関する顧客の感情に影響を及ぼすことに注力しているのもうなずけます。

CX の戦略や取り組みは絶えず進化していますが、変わらない部分もあります。それは、優れたカスタマーエクスペリエンスを提供するためには組織内のすべての部門の連携が必要な点です。1つのタッチポイントでネガティブな印象が生まれれば、他のすべてのタッチポイントでよい体験が出来ても台無しになってしまいかねません。

企業は、それぞれの顧客につき統一された全体的な360度ビューを確立し、維持する必要があります。購入段階は複雑なカスタマージャーニーの1ステップにすぎないことを理解することが重要です。ブランドが顧客を維持するには、購入後にも堅実な体験を提供する必要があります。

企業には、マーケティングキャンペーンやサービスデスクへの電話問い合わせなど、あらゆるやり取りで顧客を喜ばせることが求められます。すべての部門が協調してそうした役割を果たす必要があり、テクノロジーはそれを結びつける形で機能します。

  • 企業の3分の2は、カスタマーエクスペリエンスをめぐって競争しており、2010年の36%から増加しています。(Gartner)
  • 経営幹部の76%が CX 向上の優先度は高いまたは極めて高いと回答しています。(Forrester)
  • ビジネスリーダーの87%が CX を最大の成長エンジンとして挙げ、これは他のどの成長分野よりも高い数字を出しています。(North Highland)

CXM 導入のメリット

優れたカスタマーエクスペリエンス管理戦略の実践には、顧客満足度の向上、ロイヤルティやアドボカシーの向上、収益の増加など、いくつかの利点があります。

企業にとっての CXM の最大のメリットの3つを掘り下げてみましょう。

  1. 顧客生涯価値 (CLV) の向上

顧客生涯価値 (CLV) は、顧客が生涯にわたって企業に費やす合計金額を示します。CLV の増加は、顧客維持率の向上、顧客あたりの収益の増加、新規顧客の獲得に費やす費用の削減につながります。

  1. ロイヤルティと顧客維持率の向上

顧客維持率は、企業が特定の期間に顧客を維持できるかどうかを測定するもので、高い顧客維持率はブランドに対する顧客のロイヤルティを反映し、売上と顧客生涯価値の増加をもたらします。問題を迅速に解決し、顧客の愛顧に報い、感謝する企業は、ブランドイメージを高めることができます。

  1. 顧客解約率の低下

解約率は、顧客がブランドや企業との取引を停止する比率を測定するものです。新規顧客を獲得するよりも既存顧客を維持する方が費用が抑えられるため、解約率への対処は欠かせません。カスタマーエクスペリエンスに投資する企業は、顧客離れの減少という恩恵を受けます。

カスタマーエクスペリエンス管理を改善する方法

コロナ禍を経て、新たな人間中心の時代が訪れました。ロックダウンで家族や友人に会えずに過ごした数か月の間に、人と人とのつながりに対する価値は高まりました。今日の顧客は、自分との関係を育んでくれる企業と取引をしたいと考えています。あらゆる接点に感情とブランドの個性とを組み込んだ、本物で有意義なエンゲージメントを期待しているのです。

以下では、カスタマーエクスペリエンスにおける期待に応えるため、適切な CX 投資を行う上で押さえておきたい点を紹介します。

従業員体験

組織がカスタマーエクスペリエンスの向上に注力する中では、そのエクスペリエンスの出発点となる従業員の満足度を評価することも非常に重要です。従業員エクスペリエンス (EX) は、従業員が組織と行うあらゆるやり取りを総括したものです。調査によると、従業員体験の改善がカスタマーエクスペリエンスの直接的な向上につながることが圧倒的に支持されています。従業員のエンゲージメントが高い企業のパフォーマンスは相対的に最大で147%高く、従業員の離職率、欠勤や労働災害も少なくなっています。

「もし従業員の体験が分断され、貧弱であれば、顧客の体験も同様になります。パーソナライズされたオムニチャネルのカスタマーエクスペリエンスを構築することで、同じ体験を従業員にも提供できるようになり、三方良しの環境が創出できます。」

– Scott Draeger、Quadient、顧客変革担当 VP

優れたカスタマーエクスペリエンスを提供するには、顧客をビジネスの中心に据える必要があります。これを達成するには、企業文化の変革を行うことが最善の方法です。社内が人間(=従業員)中心になっていなければ、社外に対して顧客第一主義戦略を実行することはできません。

優れた CX を一貫して提供するには、従業員体験に多額の投資を行う必要があります。

高度な IT テクノロジー

あらゆる事業分野のテクノロジースタックに人工知能 (AI) やデータ分析などの高度なテクノロジーを積極的に取り入れる組織が増えています。

AI テクノロジーにより、機械は人間のような知性で感知し、理解し、行動し、学習できるようになります。AI を活用したソリューションはビジネス面でのニーズの進化に応じて機敏に自己最適化されます。これらのテクノロジーにより、企業は、より少ない労力で多くを的確に実現できるようになり、データを活用してカスタマーエクスペリエンスをパーソナライズすることが可能となります。

生成されるデータの量は近年、急速に増加しています。このデータの急速な増加により、企業は増大するデータを分析し、処理する機能の構築を迫られています。こうした分野で、AI が活躍します。

AI テクノロジーを活用すれば、従業員に意思決定のために必要なデータを提供し、深くパーソナライズされた人間的なやり取りに集中できる時間を捻出することができます。AI ベースのテンプレート移行、データ管理や統合でデジタル変革プロジェクトが加速し、実装にかかる期間が数か月、数年単位で短縮できるようになります。AIが持つパワー、AIによる恩恵と潜在的な ROI は年々改善され、常に成長していきます。

カスタマージャーニー管理

画一的なカスタマージャーニーがビジネス価値を推進する時代は終わりました。CX にこだわる企業が期待水準を引き上げたからです。顧客と組織とのやり取りはすべて、顧客を喜ばせ、あるいは失望させるための機会になります。

顧客のデバイス、アカウントやチャネルの数が増加するにつれ、カスタマーエクスペリエンスのプロセスは複雑化します。これにより、エクスペリエンスは分断され、顧客にとって苛立たしいものとなる可能性が高まります。しかし今日では、カスタマーエクスペリエンスで一度の摩擦が生じただけで、顧客との関係は終わってしまう可能性があります。

  • 質の悪い体験を1回経ただけでそのブランドを離れる顧客は3人に1人
  • 顧客の92%は2〜5回の質の悪い体験の後にブランドから離れることを厭わないと回答
  • 顧客の63%が優れた体験を提供する企業とならより多くのデータを共有したいと回答 (PwC)

企業が価値を推進し維持するためには、一人ひとりの固有ななジャーニーの中で、共感にあふれ、パーソナライズされたオムニチャネルエクスペリエンスを提供する必要があります。これには、カスタマーエクスペリエンスのマッピングに加え、管理が必要となります。

洗練されたジャーニー管理ソリューションのもつ力は、マッピングにとどまりません。最新のジャーニー管理ソリューションは、AI とデータ分析を活用して、強化されたパーソナライゼーションとオムニチャネルオーケストレーションの機会を特定し、大規模に実装します。

顧客のジャーニーを把握することで、すべてのやり取りが及ぼす影響を従業員がはっきり確認できるようになり、変革が可能になります。顧客第一主義の文化の創造を優先事項とする場合には、ジャーニー管理とカスタマーコミュニケーション管理を統合するソリューションの導入を検討する必要があります。

ジャーニーを本質的に理解し、可視化することには、大きな価値があります。

オムニチャネルソリューション

どのチャネルを使用している場合でも、顧客は、購入に至るまでのジャーニーにおいて、その時々の段階で関連性の高いインタラクションを期待します。さらに、競合他社では利用可能なチャネルの選択肢と一貫性を、すべてのチャネルで同じように期待します。分断化したジャーニーを受け入れることも、改善されるまで我慢することもありません。

顧客のジャーニーの可視化は顧客のニーズを真に理解する上で役立ちますが、最終的にはどのような成果に結びつけることができるでしょうか。企業が発信するコミュニケーションにはすべて、ビジネス上の具体的な目的があります。しかし、今日の顧客は複数のチャネルを通じて企業とやり取りし、通常は、好きな時に2~4の異なるチャネルを行き来しています。課題となるのは、顧客が企業とやりとりする方法を決定し、企業がそこで対応できる方法を創り上げることです。

顧客の要望を予測し、あらゆるコミュニケーションを作成・提供できるようにする必要があります。そのためには、オムニチャネルでの設計と配信技術は不可欠です。

オムニチャネル CCM 機能とカスタマージャーニー管理を組み合わせることで、顧客のニーズを予測し、あらゆるチャネルで対話できるようになります。

例えば、顧客が電話で問い合わせてきた場合でも、オンラインや SMS 経由で完了することができます。ジャーニー管理はそのようなチャネルの切り替えを予め予測できるようします。。オムニチャネル設計により、どの部門でも、そのチャネルに最適化されたコンテンツをすばやく設計し、パーソナライズできるようになり、1つのチャネルで配信に失敗した場合でも、フェールオーバーオーケストレーションによってコミュニケーションが自動生成され、別のチャネルで配信されます。 

オムニチャネルインテグレーションは、すべてのチャネルでこれを実現し、顧客エンゲージメントを高めながらコストと時間を節約します。

デジタル変革

コロナ禍により、遅れていたデジタル変革の流れが一夜にして急変しました。それに対し、多くの組織は急ごしらえでデジタル機能を寄せ集め、どうにかこれを乗り切りました。顧客からの新たな要請が高まる中、企業はデジタル CX 戦略を見直し、実行することを迫られています。

顧客向けにデジタルチャネルを整備するだけでは、標準的な期待に応えることはまず無理です。既存顧客と潜在顧客はいずれも、バーチャルエクスペリエンスが継続的に改善されることを期待しています。顧客はデジタルのインタラクションをより受け入れるようになっているため、企業にとって、デジタルファースト、カスタマーファーストのエクスペリエンスを提供することが最も重要となります。

デジタル化が進む世界で、顧客エンゲージメントとエクスペリエンスを促進するためには、企業は共感的なテクノロジー、サービスや戦略に投資する必要があります。IDC では、デジタル変革に対する世界全体の支出は今後5年間で10兆ドルを超えると推定しています。2022年には投資が加速する見通しです。

カスタマーコミュニケーション管理 (CCM) はCX のバックボーン

デジタル変革には、カスタマーコミュニケーション管理ソリューションが不可欠です。5、6年前に奏功していたソリューションでは、現在、ひいては将来の成功を実現できない可能性があります。CCM プラットフォームを評価する際には、先進的ななテクノロジーと統合できるかどうかを検討します。また、ビジネスニーズに合わせて進化できるよう、十分な柔軟性があるものを選択することも重要です。

エンタープライズ CCM の展開に「万能」なアプローチはありません。組織にはそれぞれ独自のニーズがあり、デジタル変革の段階もさまざまです。CCM は、カスタマージャーニー管理やオムニチャネルオーケストレーションなどの CX ツールと組み合わせるとさらに強力になります。

顧客第一の観点でデジタル変革を実現するには、これらのツールとシームレスに統合する CCM プラットフォームに投資する必要があります。2022年の優先事項は、要求の厳しいデジタルの世界に向け、戦略的に構築された人間中心型の変革で、組織を未来に対応できる姿に適合させていくことです。

詳細については当社の電子ブック Critical Customer Experience Investments in 2022 をご覧ください。

5つのステップで CXM 戦略を作成する方法

ここでは、一般的な課題を克服し、CX 変革を迅速に進めるためのヒントとコツを5つ紹介します。

  1. 顧客中心の文化を創造する

顧客は、自社で最も CX パフォーマンスが優れたスタッフとのみやり取りしているわけではありません。インパクトのあるカスタマージャーニーを推進するためには、そうしたパフォーマンスに劣るスタッフに対し、より顧客中心の対応ができるよう教育することが近道です。トップダウンで、企業文化のあらゆる側面を顧客中心主義に変える必要があります。

  1. CX は熱心な従業員から始まる

カスタマーエクスペリエンス戦略を成功させるための基盤となるのが顧客エンゲージメントです。ブランドの維持、提供する製品やプログラムへの支持、収益性の向上といったメリットを生みます。顧客エンゲージメントは、長期的な収益性と顧客ロイヤルティを促進する感情的なつながりを生み出す唯一の方法です。

顧客エンゲージメントを促進するためには、従業員が確実に顧客に対して適切な対応をできるように働きかける必要があります。すべての従業員はカスタマーエクスペリエンスに影響を与えます。そのため、同僚間、従業員間、そして組織との間で前向きなつながりを育む文化を構築することが不可欠です。

以下では、社内の従業員エンゲージメントと外部の顧客エンゲージメントの両方を促進する上で、効果が実証されたヒントをいくつか紹介します。

  • 協力的な企業文化を育成する。
  • どんな分野であれ、小さな改善点を特定するよう従業員に奨励しましょう。プロセスと手順を少しずつ変更しておくことで、同業他社に先んじた対応が可能となります。
  • 仕事に意欲的に取り組んでいる、意欲的に取り組んでいない、またはまったく取り組んでいないなど、現在のエンゲージメントステータスを評価します。やる気が不十分な従業員は、わずかに高い給与を提示した他社に移ってしまうリスクがあります。あからさまにやる気を失くしている従業員は、顧客と従業員の双方に対するエンゲージメントを危険にさらします。

カスタマージャーニーマッピングを CX 戦略の一部に組み込む

カスタマージャーニーマッピング (CJM) は、自社製品やサービスと顧客とのエンドツーエンドの関わりをマップとして可視化するものです。ジャーニーマップは、顧客がしていること、体験していることや感情を包括的に把握する上で役立つツールです。

マッピングが完了すると、企業は各ジャーニーを使用して、顧客満足度とエンゲージメントを直接的かつ積極的に向上させるアクションに優先順位を付けることができます。

以下の CJM のベストプラクティスを念頭に置きましょう。

  • 小さく始めて拡大していく
  • 顧客の感情を考慮に入れる
  • 利害関係者が共同作業できるよう、マップを共有可能にする
  • CJM は長期的な CXM の利益に繋がる継続的な取り組みであることを忘れない
  1. パーソナライゼーションの新しい波を受け入れる

今日の消費者は、企業とのあらゆるやり取りがパーソナライズされ、自分の状況と好みが反映されることを期待しています。コアシステムと統合し、顧客データを活用するコミュニケーションハブを整備することで、すべてのチャネルに対応できるパーソナライズされたコミュニケーションを作成できます。

  1. カスタマーコミュニケーション管理 (CCM) の定義とできることを理解する

高度な CCM を実装することで、コミュニケーションの設計と配信を通じて通信を標準化・パーソナライズし、作業を重複させることなくチャネル間での自動配信が可能になります。効率性の向上、手作業のプロセスの削減、最適化されたアジャイルなコミュニケーション設計、ミスの低減、顧客体験の向上など、多くのメリットが得られます。

結論

今日の消費者は、購入に関する意思決定の過程で、過去にないほどさまざまな選択肢を手にしており、ソーシャルメディア上のレビューのような非公式の世論に簡単にアクセスできます。そのため、競争優位性を維持するには、よりよいカスタマーエクスペリエンスの構築が不可欠です。

CX 戦略に関しては、カスタマーコミュニケーションは最も
見逃されがちな要素ですが、カスタマージャーニーにおいて重要な構成要素です。顧客コミュニケーションポートフォリオを統合することで、組織は、あらゆるチャネルでパーソナライズされ、インタラクティブでシームレスなエクスペリエンスを提供できるようになり、CX の大幅な改善、ロイヤルティの構築や維持率の向上につなげることができます。

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