はじめに

よりよいカスタマーエクスペリエンス (CX) 提供の必要性に突き動かされ、多くの企業は、顧客の好むチャネルを介して顧客とつながれるよう、コミュニケーションプロセスの変革を始めています。

ただし、電子組版プラットフォームをアップグレードしてカスタマーコミュニケーションを最新化するだけではもはや十分ではありません。今日の消費者は、シームレスなオムニチャネルコミュニケーションを期待し、有意義で深くパーソナライズされた方法でブランドと関わり、交流したいと考えています。それに応えるには、顧客がどのように考え、感じ、行動するかを完全に理解した上で、一元化されたカスタマーエクスペリエンス管理 (CXM) 戦略から起こる顧客とのコミュニケーションとデジタルインタラクションが必要になります。

こうしたカスタマーコミュニケーション管理 (CCM) から CXM への移行は、単に新しいテクノロジーへの投資で完了するものではなく、それぞれの組織が一丸となって取り組むためのための新たな方法を見つける必要があります。組織がサイロ化を克服し、ビジネスユーザーにコントロールの権限を提供するための新しいテクノロジーが多数登場していますが、CXM の変革には、組織や文化の変革が併せて必要となることが多々あります。

カスタマーエクスペリエンス成熟度モデルの利点とは?

成功する企業は、決して現状維持に甘んじません。
CCM から CXM への移行は、段階的に行うべき継続的なプロセスです。

CXM 成熟度モデルは、必要なステップを視覚化し、現在移行過程のどの段階にいるかを理解し、次に何をすべきかを計画するのに役立ちます。CCM から CXM への成熟度の評価が有用な理由には以下のようなものがあります。

  1. 組織内でカスタマーコミュニケーションをオムニチャネルエクスペリエンスへと進化させることの重要性について話し合い、教育し、社内に適合させることができる
  2. 現在の機能を事業の価値向上に必要な機能へマッピングできる
  3. 組織の他のメンバーが同意する「将来の状態」という共通のビジョンを作成できる
  4. 実践と目標を達成するためのロードマップが作成される

CXM の成熟度を認識することが競争上の優位性に

Forbes によれば、カスタマーエクスペリエンスに投資した企業は80%もの増収を実現しています。したがって、CX への注力はビジネス面での必須事項といえますが、テクノロジー市場調査の世界的リーダーである Omdia は、企業の73%が高まる顧客の期待に応えるのに苦労していると推定しています。こうした事実を踏まえると、CXM の成熟度の認識が競争上の優位性となることは明らかです。

カスタマーエクスペリエンスの成熟度評価に着手することで、自社における CX の現状を判断し、改善すべき領域を特定し、最終的に情報に裏打ちされた CX 戦略を立案できるようになります。

CXM 成熟度モデルに含まれる要素

企業が顧客とのコミュニケーションをアジャイルかつ双方向の顧客との対話へと進化させるには、5つの段階 (以下の図1参照) を経ます。各ステップは、何のために、誰が、どのようにして行うかを詳しく解説した3つの主要セクションに分かれています。

  1. 戦略 : これを行う理由とは?投資の原動力となるものは?
  2. コントロール : 変化を推進するのは誰か?新しい購入者ペルソナとはどのようなものか?
  3. 戦術 : 成熟度を高めるため、テクノロジー、プロセスや人材にどのような変化が必要か?

レベル1 : 場当たり的

レベル 1 (場当たり的) の企業においては、通常、カスタマーコミュニケーションの担当者が定義されていません。コミュニケーションは一般的に自社開発され、コンテンツとビジネスルールはアプリケーション自体にハードコーディングされています。媒体としては紙ベースである傾向が強く、手作業での変更プロセスに要するコストの高さと組織全体での不整合から、変更が難しいと感じています。
 

レベル2 : 一元化
 

レベル2 (一元化) 段階にある企業は、IT 部門が一元的に CCM 任務を担当しています。これまでに導入された複数の電子組版プラットフォーム運用し、大規模なメインフレームなどのレガシーシステムを併せ持っている傾向があります。紙への印刷から、よりドキュメントファイルの生成へと考え方は進化はしましたが、CCM を主に規制基準によって推進される構造的なアウトバウンドコミュニケーションと見なす傾向があります。CCM への投資は、オンプレミスのライセンスソフトウェア購入を通じて行われます。クラウドへの移行には関心があるものの、実際には IT インフラストラクチャ全体をファイアウォールの内側で提供される、仮想プライベートクラウドへの移行を通じて実現されます。
 

レベル3 : 管理


レベル3 (管理) 段階の企業は、顧客コミュニケーションの進化において、ある程度の進歩を遂げています。その戦略は、コストとリスクの軽減のみならず、事業価値の提供へと重点を移しつつあります。このような状況においては、プロジェクトが全社的な変革プログラムから発生するのではなく、本質的に限定的な傾向が強いため、事業価値の提供のための投資は、効率化による削減効果の実現によって正当化されます。この結果、事業部門 (LOB) の経営幹部は、各々のビジネス面でのニーズを推進する新機能開発に予算を振り向けるようになります。このようなコスト削減戦略には、印刷物の低減、コールセンターの通話件数削減、ビジネスユーザーの支援や変更管理などが含まれます。これと同時に、より多くのデジタルチャネルへの対応により、コントロールやアジリティの向上、顧客体験の改善など、ビジネス上の利点も生まれます。
 

CCM の決定権は LOB レベルにあるため、組織のサイロ化と調整の課題は残っています。購入者としての LOB は、サブスクリプション (SaaS) や目的別のソリューションとしてのソフトウェア購入に関心があります。また、管理と制御がホスト環境またはクラウド環境で処理され、構成はオンプレミスで行われるハイブリッドソリューションも、レベル3の企業にとって人気のオプションです。
 

レベル4 : 最適化


レベル4 (最適化) の企業は、企業の変革責任者 (通常は経営陣) の計画を元とするコミュニケーション戦略への移行を完了しているため、デジタル化、オペレーショナルエクセレンス、顧客に焦点を当てたデータドリブン型の思考に重点が置かれています。カスタマーコミュニケーションは、顧客とスムーズにやり取りし、チャネル間の摩擦が少ないデジタルファーストのエクスペリエンスとなっています。
 

センターオブエクセレンス (CoE)、共有サービス、時にはマーケティング運用チームといった形で、一元化されたチームがコミュニケーションとエクスペリエンスの管理を担当していることが一般的です。このチームはジャーニーマッピングを使用してカスタマーエクスペリエンスに問題がある箇所を発見し、ブラウザベースのテクノロジーを使って社内の LOB スタッフに権限を付与しつつ、企業のブランドと規制ガイドラインへの準拠を維持しています。


レベル5 : 情報の活用

レベル5 (情報の活用) の企業はレベル4の企業に非常によく似ていますが、大きな違いが1つあります。それは、前者が真の意味で顧客中心のインタラクションを促進する上でデータを活用する方法において成熟しているという点です。

デジタルリーダーは、標準的なデータモデル、人工知能 (AI)、ビッグデータ分析を利用してデータを収集し、貴重な洞察を得ます。その結果、顧客の行動とライフサイクルにおける顧客の現在地点の洞察が得られ、こうした分析情報を使用して、誰にいつどのようなメッセージを発信すべきか決定します。
 

CX 成熟度がこのレベルにある企業は、イノベーションと実験を行います。規制上の制限を克服する方法を見つけるため、法務部門と緊密かつ積極的に協力することを恐れていません。カスタマーエクスペリエンス改善がビジネスの漸進的な成長を促進する方法を理解することで、顧客との対話をカスタマーエクスペリエンスの経済性に結びつけることに注力しています。また、音声認識やチャットボットなどの新技術もいち早く導入する傾向があり、加えて AI 技術やロボティックソフトウェアオートメーションを使用してバックエンドを継続的に改善することにも重点を置いています。


レベル5の企業は、一般的に、純粋なクラウドモデルを通じてプロビジョニングされた API ベースのマイクロサービスを接続して独自のアプリケーションエコシステムを構築しています。こうすることでデジタル対応ができていない同業他社よりも迅速にイノベーションを実現できます。こうした企業に対しては、顧客は、エクスペリエンスの一部として最も価値があると感じるデータと情報のみを使用しつつ、インタラクションの方法と場所を選択できます。

CXM成熟度評価を超えて : 次の対応は?

現在の成熟度レベルが判定できたら、どう前進すべきか、ビジョンを作成する必要があります。成熟度を進化させる際に注力すべき領域を判断するには、下の図3に示すような価値評価の概要が役立ちます。

例えば、レベル3からレベル4への移行には、多くの場合、オンプレミスソフトウェアからハイブリッドまたは純粋なクラウド IT インフラストラクチャへの移行が含まれます。

成熟度の進化は漸進的なプロセスです。現在の成熟度、将来の状態、進化の理由を考慮し、現在の運用方法と目標とする運用モデルを分析して結論付ける必要があります。以下のような質問に対処するためには、ロードマップが必要となります。

  1. どのような技術面でのギャップに対処すべきか?
  2. 自社でのプロセスを整理する方法は?
  3. どのようなスキルが必要か?そのスキルは社内にすでに存在するものか、それとも外部のプロバイダーから調達すべきものか?

かつては5か年計画がよく使われましたが、今日の企業はより短期的な計画を立てる傾向にあります。高次的な最大3年間の計画とより詳細な最大18か月の計画を用意するのが一般的です。技術革新のペースや AI などの破壊的な可能性を秘めたテクノロジーに加え、クラウド配信でこれらの技術が急速に採用される可能性がある事実を考えると、3年以上の計画を立てることは困難です。成熟度の進化を続ける組織にとっては、絶えず進化する「生きた」ロードマップを整備することが実践的といえます。

結論

アナリスト企業の Aspire Communications Services (Aspire は2019年に CCM から CXM への移行を理解するための大規模調査プロジェクトを実施) は、ほとんどの企業がカスタマーエクスペリエンスを企業の最優先事項とする中、CX リーダーは次のステップに踏み出すよう強く求められており、こうしたカスタマーエクスペリエンス管理成熟度モデルを活用して現在の成熟度レベルを判断することが第一歩として好適であるとしています。

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